振袖ができるまで

憧れの振袖や帯、小物。その向こう側にある職人の技や物語を知れば、装う想いもいっそうふくらんでゆきます。「京都むらさきの」の振袖がどのように創られているのか、完成までの工程をご紹介します。

デザイン

成人式やお友達の結婚式など、さまざまな場所で、着る人を最高に美しく輝かせる振袖。そんな振袖を生み出すため、デザイナーは「身にまとった時にもっとも映えるのはどんな振袖?」と心に思い描くところから始めます。

正面の着姿だけではありません。後姿も、袖が優美に揺れて歩く姿も、どこから見ても「ステキ!」「美しい」と感じられなくては。さらに、着る人の個性を大切に——そんな振袖を作りたい。
イメージを膨らませながら、デザイナーはたくさんのスケッチデザインを描きます。

 

雛形(ひながた)

いくつものスケッチデザインの中から最終候補が決まったら、新聞紙半分くらいのサイズの「雛形」と呼ばれる設計図を作成します。専用の用紙に、全体の構図や柄の大小、配置、色のバランスなどを描き入れていくのです。

実際に描いてみると、スケッチデザインの時には気づかなかった問題点や課題が見えてきます。「もっと洗練したい!もっとエレガントに!」と、こだわりが強まっていきます。

「京都むらさきの」では、デザイナー・永山公望が意匠の職人さんと細かく、丁寧に、自分たちがとことん納得するまで雛形を詰めてゆきます。このやりとりには、一切の妥協を許しません。

染め

雛形が完成したら、職人さんに染めの作業を進めてもらうよう指示します。「ちょっと冒険かな?」という時や、微妙な色目を確認したい時には、60センチほど実際の生地に試しで染めて(枡(ます)見本)、染め具合を確かめることもあります。

イメージどおりに染め上がったこと、染のむらや仕上がりに問題がないことを確認したら、仮絵羽(かりえば)に仕立てます。仮絵羽とは、反物を振袖の形に仮縫いしたものです。
振袖をお買い上げいただく場合には、まずはこの仮絵羽で試着していただき、それから着る人の身長や体型に合わせて本格的にお仕立てします。

こうしてできあがった振袖は世界で1枚だけのオートクチュールです。だからこそ、とても着やすく、着る人の美しさを際立たせることができるのです。

袋帯のデザイン

ファッションの重要なポイントとなる袋帯は、振袖と合わせて1枚の絵となるようにデザインされます。

昔から「きもの1枚に帯3本」と言われるように、帯によって着姿の印象は大きく変わります。
また時に、着物は単なる“衣服”ではなく“メディア”にもなります。たとえば、大輪の花が描かれている振袖に合わせて、蝶がデザインされた帯を締めたとしましょう。
このコーディネイトによって、あなたの着姿は「お花畑に舞っている蝶」という物語を語りはじめます。

着物には、このように“気づいた人だけが楽しめる、知的な遊び心”が隠されているのです。

袋帯の製作

デザインが完成した帯を正確に織るために作成する設計図を、紋彫(もんほり)といいます。昔は紋紙という専用の厚紙を使っていましたが、いまはPCを使って情報を入力しています。

糸繰(いとくり)

紋彫ができたら、帯を織るための糸を染め上げます。微妙な色を調整し、指定の色を染め出すには職人の長年の勘が不可欠です。
こうして染色を終えた糸は、綛(かせ)の状態になっています。これを糸枠に巻き取る作業を糸繰(いとくり)といいます。次の仕事がしやすいように、力加減に気を遣いながら糸繰を進めてゆきます。

整経(せいけい)

糸繰が終わったら、整経(せいけい)と呼ばれる作業によって経糸を準備します。
帯は、1本あたり4,000本、多いものでは10,000本もの経糸が使われています。糸の巻取りが終わったら、ドラムの後方に設置した千切(ちきり)という木製の筒に、たるみが出ないように厚紙を挟みながら巻き取って完了です。

緯巻(ぬきまき)

続けて緯糸も準備します。糸枠に巻き取られた緯糸を杼(ひ)にセットできるように竹の管に巻いてゆきます。杼とは、織機の経糸の上を左右に走り、経糸の間に緯糸を通すための平らな舟型の道具です。この作業は緯巻(ぬきまき)と呼ばれます。

製織

さあ、ここまでの長い準備工程を経て、ようやく製織が始まります。
西陣の代表的な力織機(りきしょっき)「ジャカード」により模様が織り出されてゆきます。この時、糸の補正やチェックができるように柄の裏側を表にして織りあげてゆきます。
できあがった帯は4メートルもの長さになります。

最後の仕上げ!

たくさんの工程を経て、とうとう振袖と帯ができあがりました。でも、ここで終わりではありません。

最後に、もっとも大切なコーディネイト作業が待っています。
実際に試着していただき、着る人の個性に合わせて、帯締め、帯揚げ、衿元、草履、ショールなどをコーディネイトしてようやく、その人にピッタリの、その人だけの着姿が完成するのです。